Greetings from Lover's Lane
ブルース・スプリングスティーンについて、なにもかも。
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Watching "The River"Flow in 2015-2016
 遂に、噂が流れて約5年余り。1980年のアルバム、"The River"のアウトテイクと80年10月の"The River"ツアーの未発表ライヴとリハーサル映像を網羅した"The Ties That Bind"が正式にリリースされた。ここ2年程のLive Archiveサイトの登場で、滅多なニュースでは驚かなくなっていたが、さすがに これは驚いた。

 ドキュメントは、"明日なき暴走"の"Wings For Wheels"と"闇に吠える街"の"The Promise"とは体裁が違い、殆ど全編を、現在のブルースのインタビューで"The River"の制作過程を明らかにしていくスタイル。10年前に"Born To Run"の記念盤が出た時に、既にドキュメント制作を想定して、Eストリートバンドのメンバーやジョンランドーからもコメントを あらかじめ録り貯めていたのかなぁと想っていたが、いざ全編を観ると今回は そうではなかった。それでも、現在のブルースがギターを爪弾きながら 弾き語る数曲は、ボーナストラックで全編観たい位だったし、"Wreckin Ball"のMVで一瞬映り込んだ1980年のテンピのリハでの31歳のブルースが 会場のPA卓で、じっと考え事をしている姿が、カラーでいきなり挿入されたり、今回リリースされたアリゾナ州テンピでのツアー映像の断片が登場すると("Cadillac Lunch"でのブルースとクラレンスが2人で徐々にカメラに近寄ってくる表情ときたら!)、一瞬言葉を失ってしまうぐらいのインパクトがあった。

 驚かされたのは、制作されていた楽曲の多さ!マックスが84年のBackstreets誌のインタビューで語っていた、"殆ど全曲に存在するロカビリーヴァージョン"こそ"You Can Look"のみの披露に留まったが、今迄にシングルB面や"Tracks"や"The Essencial"で小出しにされていた未発表曲も全て取りまとめられた22曲(理由は不明だが"Bring On The Night"が外されている)に、79年クリスマス時期にリリース予定だった1枚もののアルバム"The Ties That Bind"の10曲。それを除いても、まだアウトテイクがあると想われる。インタビューの合間に、さり気なく挿入されるレコーディング記録の数字ときたら!"The Promise"も そうだったが、77-78年より短いスパンでの、ブルースとEストリートバンドのレコーディングの壮絶さが、如実に伝わってきた。本当に、毎日、毎晩、ブルースは新曲を書きあげ、バンド向けにアレンジをして、何度となくリハーサルで思考錯誤して、、人生を全て懸けて、レコーディングに臨んでいた事実に戦慄した。

 前回の"The Promise"あたりから 詳細はクレジットされていないが、明らかに追加レコーディングが施された曲も絶対あるはずで、この辺りは、チャールズ・クロスにでも、鋭いツッコミを発揮して、メンバーやブルースに今後でもいいからインタビューで明らかにしてもらいたいところだ。

 ありえない話だが、もしブルースが60年代中期にデビューしていたら、拘りなく、完パケした曲を、矢継ぎ早にシングルリリースして、ヒットを連発したかもしれないな、と想ったりもした。先行シングルでリリースされた"Meet Me In The City"や"Party Lights"は、個人的には、アルバム収録曲の"I am A Rocker"や、"Crash On You"に勝るとも劣らない、クオリティに仕上がっているし、万一今後の人生で 間違ってでもブルースに出くわした時には、"どうしてこれを外したの?"と丁寧な言葉遣いで問い正したくなる。



 アルバム"The Ties That Bind"の中では、既に"Fade Away"のB面でリリースされていた"Be True"が、既存のテイクはデモヴァージョンを間違えて収録したのでは、と想うぐらい いい出来だったし、"Hungry Heart"は、ピッチがオリジナル通りになっていて、現行のヴァージョンはジョンランドーの戦略でピッチが改変されていたことが明らかになったりと、聴き所は多いし、これはこれで整合感はあるのだが、今となっては、やはりボリューム的にもストーリーテリング的にも、もっと聴きたい!という種の物足りなさを強く感じてしまった。

 本音を言えば、80-1年ツアーでの演奏が観てみたかった"Chain Lightning"は、既に、後年の"Spare Parts"や"Seeds"での強烈にブルージーにドライヴする演奏の萌芽が観られるし、ブルース本人は、"Crash On You"と差し替えたかったと発言してるが、個人的には当時起こったばかりの、スリーマイルアイランド事故との関連性を指摘され、支持を失う事を懸念しブルースとランドーが差し替えたと想っている"Roulette"と"Mr.Outside"は、あえて今、カップリングでシングルカットして某国の政府に送りつけたい歌詞の切れ味だし、"Paradice By The C"のスタジオ版を聴いた瞬間、クラレンスのサックスは、唯一無二で、バンドの中でブルースに拮抗できる存在だったんだなぁと、改めて実感した。後半の既発表のアウトテイクも"Tracks"でのリリースから20年近くたち、リマスターされて曲順も整理されてまとめられているが、むしろ"Hungry Heart"よりラモーンズ向けに想える"Living On The Edge Of The World"も、実は本邦初CD化の"Held Up Without A Gun"も、Eストリートバンドが目の前で演奏してるかのようなライヴ感が溢れ出しているし、、、、さながらブルースとEストリートバンド版の'Nuggets"みたいだ!!当時のブルースはアルバム一作品で表現するテーマへの拘りが、尋常でなく強いあまりに、少しでも楽曲の曲調が似通っていたりとか歌詞のテーマが重複するものについて、徹底的に推敲を重ねて、現在の2枚組に辿り着いたことが分かる。

 もし22曲入りのアウトテイクスや、アルバム"The Ties That Bind"がオリジナルの2枚組の替わりにリリースされていたとしたら、ブルースのその後のキャリアも、また違った方向に進んでいただろうし、"Nebraska"や"Born In The USA"は、リリースされず、ニュージャージーのローカルヒーローとして、今でもStone Ponyでライヴをやってたかもしれない。結果、2枚組で出されたアルバムは全米1位となり、さらなる商業的成功と創作の自由を手にしたわけで、その点では、本人曰く「絶対に下げてはいけない自身の基準」に、最後迄こだわり抜いたブルースの慧眼に、頭が下がる。

 そして、遂に全編ではないが、2時間40分がリストアされた80年11月4日の"The River"ツアーのライヴとリハーサル!発売までに巧妙に少しずつ公開された予告映像にも唸らされたが、いざ全編を観たら、、しばらく言葉が出て来なかった。それにしても よく録っていたし、フィルムが残っていたと想う。Darkness Boxの会場の記録用録画と違い、4台のカメラで録られた純粋なライヴの記録。
ブルースとEストリートバンドは、若いし、動きもシャープで、トリッキーで、正直に言うと、それ以後失われたものが、全て揃っている。クラレンスは、いにしえのジャズマンみたいなスーツをバリっと着こなして、ブルースに負けずにステージをかけずり回るし、リトルスティーヴンは現在の100倍真面目に(!?)ストラトを弾いているし、マックスは、ビシッと正装して、楽曲の歌詞を口ずさみながら、ワイルドなドラミングを連発するし、まだブルースが1番の歌詞を観客に唄わせずに自分で唄う"Hungry Heart"でのダニーフィデリシのハモンドのソロに、、発売直前のTVコメントでリトルスティーヴンも指摘している通り、まさに、ブルースとバンドのピークの瞬間が確実に捉えられている。もう、見所しかない、と断言したい。

 目玉は、、"No Money Down"から連なる"Cadillac Lunch"に、"Sherry Darling"に、後年の"Tunnel Of Love"ツアーで、"All That Heaven s Will Arrow"で披露されたものとはアレンジもメロディも若干違う、"Here She Comes"がイントロに入る"I Wanna Marry You"にスタジオヴァージョン以上の説得力がある"Drive All Night"に、あらゆる瞬間に聴き手の呼吸を止めてしまう力を秘めている”Jungleland"!!ステージングこそ、後の"Born In The USA"ツアーや 再結成後のツアー映像で観られる洗練には達していないが、それを補って余りあるブルースとEストリートバンドのライヴバンドとしての力量が、完璧に捉えられている。

 そして、後からボーナストラック的にリリースされた映像なしの10曲をカットして追加されたリハーサル映像は後年のドキュメント"Blood Brothers"のように、ブルースが、バンドに曲のアレンジを指示する瞬間などは、残念なことに記録されていないが、その後のライヴでも殆ど披露されなくなった"Crash On You"のオリジナルアルバムヴァージョン そのままのアレンジの演奏や、恐ろしく恰好良いブルースとクラレンスの"Fire"のヴォーカルの絡み部分などが、クリヤな映像で観られる、というのは、これはこれで、適切な判断だったと想うし、今回の究極の目的である"The RiverツアーでのブルースとEストリートバンドの絶頂期を記録する事に見事に成功していると感じた。

気がかりな2016年の短期ツアーだが、ブルースにしては初めて過去のアルバムを冠にした、ノスタルジーツアーになってしまうのか、と危惧したが、実質編成は2016年の現在のメンバーだし、アルバム3枚分以上のアウトテイクも、ブルースの1アクションで すぐに披露出来る状態に仕上げてくるだろうし、その心配は無いと想うが、なにせブルースのことなので、ツアーの大ラスには、セットリストとバンドの出来がどうなっているか、今迄以上に期待して待っていたい。 
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